人間能力開発研究所は、非営利の教育組織で、脳障害児および健常児のための仕事をしています。子供をもつ人々に、子供の脳の発達と成長についての情報を提供することが、この研究所の活動の中心です。親御さんたちは、脳はどのように成長していくのか、脳障害のあるわが子の脳の成長をどのようにしたら速められるのか、健常なわが子の脳の成長をさらに促すにはどうしたらよいかを学ぶことができます。
あるひとつのことが知りたくて、これまで40年以上もの間、世界各地の50人も100人もの人々とともに、できる限りのことをして。できる限りのことを学んだ結果、その間に学んだことのすべてをひとつのパラグラフでまとめて言い表すことができることに気がついたとしましょう。
その仕事にかかわった人間の時間をすべて合計すると千年ぶんにもなるような研究が、たったひとつの短いパラグラフで簡潔に言い表されてしまったら、人はがっかりするでしょうか、それとも、短いパラグラフに凝縮して言い表すことができることを心から喜ぶでしょうか。
私たちの研究所では、そういうことがおこっているのです。 私たちは、このような気持ちの、ときにはあちらを、ときにはこちらを感じながら過ごしています。
完全に健常にすることができなかった脳障害児を目にするとき、脳の機能について私たちはまだ学んでいる途中なのだと気付かされ、自分たちのこれまでの仕事がたったひとつのパラグラフで言い表されてしまうことに動揺を感じることがあります。

その一方では、素晴らしい進歩をみせたり、完全に健常になったりした脳障害児のことを思うとき、また、ごく平均的なところから出発して、20年前には空想の域にしかなかったほどの素晴らしい機能を発揮している子供のことを思うとき、次のパラグラフはなかなかよい表現だと思えてくるのです。
世間では、脳の成長と発達は、あたかもあらかじめ運命づけられた、変えることのできない事実だとみなされてきました。しかし私たちは、脳の成長と発達は、ひとつの動的なプロセスであることに気がついたのです。このプロセスはその進行が停止することもあります。(非常に重度な脳障害の場合がそれにあたります。) またこのプロセスは進行の速度を落とすこともできます。(中度の脳障害の場合がそれにあたります。)しかし何よりも重要なのは、このプロセスは、速度を速めることもできるということなのです。
好むと好まざるとにかかわらず、私たちがこれまでの人生をかけて発見したのはこのことだったのです。
そしてこれは、私たちにとって何よりも大切な教訓となったのです。(もうひとつのパラグラフは別として)
もしそれが正しいのなら、かかわった人々が使った千年ぶんもの時間は価値あるものだったと考えていいのです。そのパラグラフは、「穏やかな革命」を広げる種子なのですから。
でも、知識をもっているだけで、その知識をどう使ったらよいか分からなかったら、知識の価値はありません。
ここで私たちはもうひとつの教訓を発見しました。私たちが学んだことのすべてをひとつのパラグラフで言い表せることがわかったのです。それを幸運とみるか不運とみるかは、私たちが前を向いているのか後ろを振り返っているのかによるといえるでしょう。
そのふたつのパラグラフのどちらのほうが重要度が高いかは、何とも言えないところです。
何かをおこなうとき、それがどんなにうまくいっても、なぜうまくいくのかを正確に理解しないと落ち着かないというタイプの人たち(私たちがそうです)ならば、最初の教訓のほうを何よりも重要だと思うでしょう。
一方、とにかく事を先へ進めて、素晴らしい成果を目にしたときにこの上ない喜びを覚えるというタイプの人たち(私たちがそうです)ならば、2番目の教訓のほうを何よりも重要だと思うことでしょう。
脳の成長が秩序だったものであることを認識したうえで、子供たちに、視覚、聴覚、触覚の刺激を、頻度、強度、継続度を増しながら与えること、それが人間能力開発研究所でおこなっていることのすべてです。

これが、人間能力開発研究所のおこなっていることのすべてです。
しかしよく考えてみると、私たちはそれさえもしていないのです。正しく言えば、私たちは、そのやり方をご両親に教えているということです。
からだが麻痺した子供を歩けるようにするために私たちがしていることは、これですべてなのです。
昏睡状態の子供の意識を取り戻すために私たちがしていることは、これですべてなのです。
感覚のない子供が感じられるようにするために私たちがしていることは、これですべてなのです。
一般には、重い脳障害をもった子供を健常にすることはできないと考えられている世の中で、私たちが失敗することは驚くにあたりません。私たちがしばしば成功することのほうが驚きなのです。
ごく普通の赤ちゃんが4歳になるまでに、数ヶ国語を完全に理解して読めるようにするために私たちがしていることは、これですべてなのです。
ごく普通の赤ちゃんが4歳になるまでにバイオリンを弾けるようにするために私たちがしていることは、これですべてなのです。
ごく普通の赤ちゃんが4歳になるまでに素晴らしい体操の技を身につけるようにするために私たちがしていることは、これですべてなのです。
ごく普通の赤ちゃんが4歳になるまでに高度な数学を理解できるようにするために私たちがしていることは、これですべてなのです。
ごく普通の赤ちゃんが4歳になるまでにコンピューターのプログラムを作れるようにするために私たちがしていることは、これですべてなのです。
ごく普通の赤ちゃんが4歳になるまでに泳いだり飛び込みをしたりできるようにするために私たちがしていることは、これですべてなのです。
ごく普通の赤ちゃんが4歳になるまでに親が教えるありのままの事実を学びとることができるようにするために私たちがしていることは、これですべてなのです。
ごく普通の赤ちゃんが4歳になるまでに、こういうことのすべてをこなせるようにするために私たちがしていることは、これですべてなのです。
ごく普通の赤ちゃんが6歳になるまでにこういうことを見事にこなせるようにするために私たちがしていることは、これですべてなのです。
私たちがしていることは、これですべてです。
より正確に言うならば、私たちはその方法をご両親に教えているのです。
脳へと向かう経路は5つです。ダ・ヴィンチも、その経路を通して学んだのです。あなたも、私も、あなたの赤ちゃんも、みんな、この5つの経路を通して学ぶのです。5つの経路とは、見る、聞く、感じる、味わう、匂いをかぐの5つです。
味を感じることと、匂いをかぐことは、人間においては劣性の経路です。これらの機能は、ペットの犬や猫のほうが人間より優れています。大人になれば、それらは主として喜びを求めるときに使う経路です。
これらの5つの経路が、感覚経路を形成します。脳と脊髄の後ろ側の半分が、実際にこの感覚経路になっています。
子供に視覚、聴覚、触覚の刺激を、頻度、強度、継続度を増しながら与えるとき、それは実際に子供の脳を物理的に成長させているのだということを忘れないでください。