
私を見たら多分皆さんは、典型的な中脳障害児だとおっしゃるでしょう。賢くて、物覚えが速く、たくさんのことに興味をもっています。話すことや社交的なことが大好きですし、本の虫です。一方、中脳障害のために、呼吸の問題が非常に大きく、その結果として体が堅く、運動、バランス、協調に問題があります。
体が硬いという問題を健常な人が理解しようと思うなら、体じゅうの関節、足首も膝も股関節もすべてを、ゴムひもできつくしばった状態を想像してみるのが一番よいでしょう。どんな動きをしようとしても簡単には動けず、いつも「ゴムひも」が脚や指やその他の部分をきつく締めつけてくるのです。研究所のプログラムを始める前、私は体中がかちかちでしたが、今では堅さを感じるのはいくつかの関節だけです。
私のような中脳障害者は、常に協調に問題があり、また脳から発せられた指令を体の各部分に行き渡らせることに問題があるのです。人間能力開発研究所のプログ ラムを始めたころ私は、腹ばいをするには膝を曲げて、脚を前に出さなければならないことを知ってはいましたが、曲げようとしてもまったく曲がりませんでし た。何千時間もプログラムをやるまでは、この指令脚まで伝わらなかったのです。去年の夏、私は2週間ほどかけて、横棒につかまってジャンプするにはどうすべきかを、自分に向かって語り続けました。膝を曲げてから、素早く足の親指の付け根に力を入れるのよ、と自分に向かって言い続けました。それでも最初は1ミリも跳べませんでした。でも2週間たってとうとうジャンプすることができたのです!やっと指令が届いたのです。中脳障害児が、何かをやるのはどういう感覚なのかというメッセージを受け取り、実際にそれができるようになるには、これほど時間がかかるのです。ほんとうにフラストレーションを感じます。
でもプログラムを始めてからはこの指令の伝わり方がずっと速くなっているのは嬉しいことです。プログラムは本当に厳しいですが、脳障害者が健常になる希望をもてる唯一のものであることも私は確信しています。毎回厳しさはさらに増していくのですが、私は、毎月の小さなゴールを達成しようとすることが何よりもやる気を起こさせてくれることに気がつきました。ゴールを達成すると私は、美術館に行ったり、コンサートを聴くというようなご褒美を自分自身に与えます。 この間は、歩行トラックで完璧な歩き方の200歩を20セットというゴールを達成して、コンサートに行くという恩典を手に入れました。このゴールの達成には1カ月ほどかかりましたが、コンサートに間に合うようにと思って頑張りました。
中脳障害児のご両親への私のアドバイスは、研究所のプログラムをやってご覧なさい、ということです。まず『あなたの脳障害児になにをしたらよいか』のコースに参加して、できるだけたくさんのことを学び、一定期間、例えば6カ月間くらい、プログラムに100%の力を注ぐのです。私と私の家族はそれをしましたが、数週間ですばらしい進歩があったのです。よい結果がでれば、きっと皆さんも、ぜひプログラムを続けてやりたいという気持ちになるでしょう。
手術もせず、薬も飲まずに、硬直した筋肉が緩んでくることを、皆さんにも知っていただきたいのです。補装具をつけずに歩くことを覚えられるし、はっきりと話せるようになるし、堅くて協調の悪い指も、美しいピアノコンチェルトを弾けるようになるのです。これは私自身のうえに起こったことですから確かです。研究所のプログラムで頑張れば、努力に見合うだけのものが得られます。
すでに研究所のプログラムをしている中脳障害児にも、いくつかアドバイスがあります。熱意をもっ て取り組めば、そして少しだけ余分の努力を注いだなら、きっと着実に一貫して進歩していくでしょう。例えばピアノの練習をしているあなたにお母さんが、最後にもう一曲弾いてちょうだい、と頼んだとします。あなたは疲れていて機嫌が悪かったので、感情も表現もなくただお座なりに一曲弾いたとしましょう。弾き終わって「ほら、これでいいでしょ」とあなたは言います。あなたは音符を全部弾いたかも知れないけれど、これではピアノの上達はありません。研究所のプロ グラムをするのも、これに似ていると私は思います。チェックリストにあることを全部やって、その日のスケジュールをこなしても、熱意も何もなく、"ひと頑張り"の気持ちがなかったなら、進歩するはずのものも進歩しないでしょう。
もちろん私だって、いつでもベストというわけではあり ませんが、最近グリーン・ジャケット(生理面)のスタッフからもらった新しい栄養のプログラムによって、エネルギーが増してきました。夜寝る時間になっても、私の目はまだパッチリで、元気いっぱいです。エネルギーにあふれていれば、プログラムをこなすのもずっと楽です。
脳障害があることで一番いやなのは、健常な友人がやっていることで、私にできないことがあることです。スキューバダイビングや、バックパックを背負って山登りもしたいし、馬に乗って障害物を跳び越えたり、コロラドの山々を馬の背にゆられて歩き回ったりしたいです。私はこういうことができるようになる日を楽しみにしてい ます。
皆さんまさかと思うかも知れませんが、脳障害であることが、私の人生に前向きの効果も与えています。もし私が健常で毎日学 校に行っていたとしたら、今のように家族全員でプログラムに取り組んでいるのと比べて、私と家族の間はこれほどしっかりとは結ばれていなかったでしょう。 また、もし脳障害でなかったら、研究所の人々や、世界各地からやってくる脳障害児など、こんなにたくさんの素晴らしい人々と出会うことはなかったでしょう。
私には、将来の計画がたくさんあります。当面の計画は、引き続き頑張ってプログラムをして、できるだけ早く卒業することです。大学に入ったら、海洋生物学を専攻したいと思いますし、英文学の勉強もしたいです。その後数年間は、イルカの知性の研究をしたいと思います。物を書く ことも続けて、できればいつか、ニューヨークタイムズのベストセラー・リストに入る本を書きたいです。
また私は本と同じくらいに馬が好きですので、テネシーウォーキング種とアパルーサ種の馬を育てることが夢です。アメリカの北東部は、馬好きにとっては最高の場所ですので、そこで馬術ショウと取り組みたいです。
フィラデルフィアのほうに来たときにはいつも、研究所のクリニックでボランティアをしたいと思います。ですから何年か経って研究所にいらした方が、駐車場で場所をふさいでいる馬用のトレーラーを見つけたなら、私がこの町に来ていると思ってください。そのとき私は、クリニックで脳障害児たちのために働いているでしょう。